インターネットは1969年に開始されたARPANETが起源といわれておりますが, 1990年代に入ってWWW (World Wide Web)によるホームページや 商用プロバイダ・地域プロバイダの登場と共に急成長を遂げ, 現在は日常生活に欠かせない社会基盤となりました. さらに近い将来,日常生活に使われるありとあらゆる機器 (家電製品なども含む)の インターネット接続が考えられています. 特に,移動・無線通信技術は,インターネットの応用を大きく広げ, いつでもどこでもインターネットに接続できる環境を実現する手段として提供されつつあります. また,これまでインターネットはデータ通信が主でありましたが, 近年音声や動画像情報の転送も行おうという動きも活発です. つまり,このような複数のメディアを同時に扱う マルチメディアインターネットの構築が望まれてきています. そこで,私たちの研究室では,以上の最近の動向を踏まえ, 以下に示すような無線移動体通信によるインターネット接続やマルチメディアインターネットを構築するための基盤技術に関して研究を行っています.
地理指向ネットワーク
研究概要
スマートシティに代表されるような,人々の生活圏内のモノ/ヒト等のデータ (異分野データ) をネットワークを介して相互に連携させることで,特定地域内の人々の生活品質(QoL:Quality of Life)を向上させる事が期待されている, IoT (Internet of Things) サービスが近年注目を集めています.これらのIoT サービスは,以下の3つの工程を経て実現されると考えられています.
1.データ収集
多種多様な機器が取得する情報をネットワーク上に収集する
2.データ分析,生成
収集した大量のデータ(ビッグデータ)を利用用途に応じて,適切に分析/処理(機械学習などを利用)し、コンテンツや制御情報を動的に生成する
3.データ配信
分析/処理したコンテンツや制御情報を,サービスとしてモノやヒトに向けて配信する(データ配信)
このIoTサービスの実現にあたっては,我々の身の回りに存在するIoT機器から送信された異分野データを,その種類や宛先に依存することなく,サービスを利活用する人々の利用範囲、つまり生活圏内で収集することができれば,データのリアルタイムでの分析や,その結果から作成された地域特有のニーズに基づく動的コンテンツの配信も容易となると考えています.しかし,現在のネットワーク基盤はキャリア毎に非依存で独立管理されている「サイロ型」の構造になっており,実際の物理空間と対応付いていません.その結果,IoT データを送信する機器や,宛先であるクラウド上のサーバが,ネットワーク上に分散して存在するため,異分野データ連携に必要な近接空間内のデータを利用するユーザが存在する空間内で効率的に収集・分析・配信することが出来ません.つまり,人々の生活圏内に特化したコンテンツや制御情報を利活用することが困難と言えます.
そこで我々の研究グループでは,人々の生活圏内に存在する多種多様なモノ/ヒトにまつわる異分野データを物理空間に基づいて収集,処理,配信を行うための新たなネットワーク基盤として,地理指向ネットワーク (GCN: Geo-Centric Network) という概念を新たに提案し,この概念の実現に必要な「データ収集手法」「データ分析、生成手法」「コンテンツ配信手法」に着目して研究を進めています.
研究成果
特許
田村 瞳, ”位置情報に基づくIP(Internet Protocol)アドレスを決定する技術研究成果:,第6074829号,平成29年1月20日(金)
車車間通信による情報滞留システム
IoT* / CPS** 時代に向けて,様々なモノがインターネットに繋がり,至る所でデータが生成されるようになります.それらのデータの中には,IoT デバイスが設置されているその地域や特定の時間でしか生成されないような,時空間的に依存したデータが含まれています.例えば,天気情報や交通情報,災害情報のことです.そのようなデータを私たちは「時空間データ」と呼んでいます.
今後,IoT デバイスのさらなる増加に伴う時空間データ生成が増加し,流通していくことが予想されます.したがって,大量のデータ流入によって既存のネットワークインフラの負荷が増大してしまうことは想像に難くありません.そこで私たちの研究室では,車両を使って時空間データを配信する「時空間データ滞留システム」を考案しました.
しかし,車両は当然移動してしまうので,車両の多い場所や少ない場所が発生します.この車両密度の非一様性は,車両の多い場所ではデータ送信の増加による電波干渉を引き起こし,反対に車両が少ない場所ではそもそもデータが広範囲に配信できないなどの問題をもたらします.これらの問題を解決するために,車両密度に応じて動的にデータ送信確率を制御する手法を,シミュレーションを用いて実装・検証し,より効率的なデータ配信の実現に向けて研究を進めています.
ハーモナイズドSoftware-Defined Networkの研究
近年,スマートフォンやタブレット端末等といったモバイル機器の普及により,人々かいつでもどこでもインターネットサービスを利用することか一般的となっています.これに加え、IoT時代の到来に伴い、今後は膨大な数の様々なモノがインターネットに接続されるようになると予想されるため、モバイルトラヒックが急増するだけでなく,そのトラヒックそのものの通信品質要求も多種多様化していくことか予想されています.
このような多種多様な通信品質要求を確実に満足するためには,1つの通信チャネルの有効利用のための手法に留まらず,複数の通信技術やチャネルからの「適切な通信技術やチャネルの選択」や,マルチホップ通信時には「適切な経路の選択」なども考慮する必要があります.つまり,無線通信の制御だけでなく,ネットワーク全体を考慮した制御が必要になると考えています.
そこで本研究プロジェクトでは,これまで主に無線資源の有効利用を目的として研究開発が進められているコグニティブ無線に代表されるソフトウェア制御技術と,主に有線資源の有効利用を目的として研究開発が進められているOpenflowに代表されるSoftware-Defined-Network(SDN)技術を連携させるハーモナイズドSoftware-Defined-Network(SDN)という概念を提案しています.この中で我々の研究グループでは,チャネルや経路選択を対象としたネットワーク制御に関して着目しており,無線制御を対象としている共同研究者と適宜,連携を取りながら研究を進めています.
次世代無線NW のためのグローカル連携制御
近年、M2M (Machine-to-Machine) やInternet of Things (IoT) 技術の発展と普及に伴い、無線通信モジュールを搭載した機器が爆発的に増加すると予測されています。OECD(経済協力開発機構)によるとM2M デバイス数は2020 年までに 530 億台にまで達すると想定されています。これに対し、現状のIoT サービスは、全てのIoT データをインターネット上に設置されたクラウドサーバに一度蓄積した上で活用しているため今後は膨大な数のIoT デバイスからサイズが小さく且つ用途が異なるデータが発生すると考えられます。
このように、異なる通信要求を持つ通信が混在することは避けられない状況に対して、現在の802.11acを始めとする無線通信規格では、通信を制御するAP側によって画一的に通信パラメータが決定され、端末の接続先APは主にAP からの最大「電波信号強度」に基づいて決定されるシンプルな仕様を用いているため、多様な通信要求が混在する環境に適応することができません。
そこで、利用用途に応じて無線通信チャネルを分ける事で、これらの問題に対応する取り組みはこれまでにも行われてきましたが、無線資源には限りがあるため、今後のAP や端末数の急増によって、同一チャネル上での混在は回避できない事は明白です。そこで本研究では、AP-端末間グローカル制御 を提案します。具体的には、(1)AP による「長期的」かつ「グローバル」な視点での利用チャネルとフレームサイズの決定と、(2)端末による「短期的」かつ「ローカル」な視点での接続先AP の決定、(3)(1)と(2)の定期的な確認と調整(OODA(Observe-Orient-Decision-Act)ループ)によって、無線利用状況の変化に適応することを目指しています。
これにより、今後増加する高品質ビデオや膨大な数のセンサからの少量かつ低頻度な通信等のそれぞれのQoE (Quality of Experience) を満足しつつ、無線資源の効率的な利用の実現を目指します。また、提案アルゴリズムを実際のAPや、端末群に実装することで、ネットワーク全体のQoE の向上も目指す予定です。
GPSシンチレーション発生時の時空間情報の精度向上手法
GPS(Global Positioning System) は今や、正確な位置情報や時刻情報を取得する手段としてスマートフォンを始めとした一般ユーザだけでなく、通信システムやアプリケーションを含む幅広い分野で利用されています。GPS の原理は、地球を周回する複数の人工衛星から送信される GPS 信号の電波伝搬時間から GPS 衛星と受信端末との距離を求めることで、位置・時刻情報を推定するといったものです。
GPS を利用しているサービスは GPS によって得られる位置情報や時刻情報に誤差は存在しない、もしくは存在してもその影響は極めて小さい、という前提で成り立っているため、位置情報や時刻情報に大きな誤差が発生するとサービス品質に影響し、ユーザ満足度の低下を招くことになります。これは通信システムの分野においても同様で、GPS信号を活用して時刻同期を行い、衝突回避を行う先進的な基地局システムや位置情報を用いたユーザ端末の接続管理を行う通信システムに対して、極めて深刻な影響を与える事が予想されます。
特に2020年頃には、11年周期の太陽活動が極小の時期を迎え、地球に飛来する銀河宇宙線量が増加することで電離圏構造が不安定になると予想されています。電離圏構造が不安定になると、GPSシンチレーション(GPS信号のゆらめき)が大きくなり、GPSの測位精度が劣化することが問題視されています。
そのため、私たちの研究室では、九州工業大学工学部の奥山研究室と共同で実験を行うことで、奥山研究室が2018年度内に打ち上げ予定の人工衛星を用いて、電離園構造の各種情報を常時取得しつつ、地上におけるGPSシンチレーションの発生状況との時間的・空間的な相関関係について調査します。その結果を踏まえて、GPSシンチレーションの影響を考慮した時空間情報の精度向上を実現するための研究を行っています。